1920(大正9)年、アメリカで禁酒法が実施された日です。 プロテスタントの影響が強かったアメリカではこれまでに18の州で禁酒法が実施されていましたが、この日からアメリカ全土に施行されました。 ところが、健康へ悪影響を及ぼす密造酒の横行や、ギャング出現の引き金にもなりました。
お酒に関する昔話むかし、あるところに、むすめがひとりある夫婦がすんでいました。 そして、むすめが結婚する日がきました。 結婚式の日には、しんせきや知りあいの人たちを、おおぜいまねきました。 さて、教会での結婚式も無事にすみ、こんどはむすめの自宅で、はなやかなお祝いのパーティーをひらくことになりました。 ごちそうが山のようにテーブルにならべられましたが、まだ、ぶどう酒が出ていません。 そこで父親が、むすめの花よめに、いいました。「ぶどう酒がなくちゃ、どうにもならん。地下の酒ぐらにいって、もっておいで」「はーい」 花よめは、酒ぐらにおりていきました。 そして、ぶどう酒のビンをタルの下にあてて、せんをぬいて、ぶどう酒がビンにいっぱいになるのをまっていました。 花よめは、そのあいだボンヤリと、かんがえごとをはじめました。「わたしは、とうとう結婚したんだわ。これから九か月もすると、むすこが生まれるわ。名まえは、なんとつけようかしら? ・・・そう、チッコ・ペトリロにしましょう。服をきせ、くつ下をはかせ、かわいがって育てて。・・・でも、もし、かわいいチッコが死んだりしたら、どうしましょう。・・・ああ、かわいそうな子、どうして死んでしまったの」 花よめは、ワーッと、なきだしました。 タルのせんは、あけっぱなしでしたから、ぶどう酒は、ザアーザアーと、床にながれっぱなしです。 テーブルについていたお客たちは、いつお酒がくるのかと、まっていました。 でも、いつまでたっても、花よめはもどってきません。「ちょっと、酒ぐらへいって見ておいで」と、父親が、おくさんにいいました。「そうですね。ひょっとしたら、あの子は、ねむってしまったのかもしれませんね。小さいときから酒ぐらで、よくひるねをする子だったから」 母親が、酒ぐらにおりていくと、むすめがオイオイと、ないています。「まあっ! どうしたの? なにがおきたの?」「ああ、おかあさん。きょう、わたしは結婚したでしょう。そうすれば、九か月あとには、むすこが生まれるわ。その子の名まえは、チッコ・ぺトリロにしようと思うの。だけどね、おかあさん。もし、チッコが死んだらと思うと、かなしくて、かなしくて」 むすめは、またも、ワーッと、なきだしました。「ああ、かわいそうな、わたしの孫」「ああ、かわいそうな、わたしのむすこ」 むすめとおかあさんは、だきあって、なきだしました。 テーブルについていた人たちは、いくらまっても、ぶどう酒が出ないので、イライラしてきました。「ふたりとも、なにをしているんだ。わしが見にいって、どやしつけてやろう」 父親は、酒ぐらにおりていきました。 すると、妻とむすめは、足までぶどう酒につかりながら、だきあって、ないています。「おい。なにがおきたんだ?」「おとうさん、きいてください。この子は、きょう結婚したでしょう。すると、まもなく、むすこが生まれますね。そこで、わたしたち、チッコ・ペトリロって名まえをつけることにしたんです。でも、そのかわいいチッコが死んだらと思うと、かなしくて、かなしくて・・・」「うん。もっともだ、もっともだ。かわいそうなチッコ・ペトリロ」 父親も、なきだしてしまいました。 三人が、なかなかもどってこないので、「ぼくが、見にいってきましょう」 花むこは、そういって、酒ぐらに、おりていきました。 すると三人は、足までぶどう酒につかりながら、ないています。「いったい、どうなさったんです!」「あなた」と、花よめが、いいました。「わたしたち、結婚したんですから、むすこができるわね。わたしは、その子に、チッコ・ペトリロと、名まえをつけることにしたんです。でも、せっかく育ったチッコが、もしも死んだらと思うと、かなしくて、かなしくて。それで、ないているんです」「はあ? ・・・」 花むこは、さいしょ、じょうだんをいっているのだと思いました。 ところが、本気でいっているのがわかりましたので、三人にどなりました。「あなたたち三人は、そろいもそろって、なんてばか者なんだ。みんな、お酒が出るのを、まっているじゃないか。いままで、こんなばか者ぞろいとは、思ってもみなかった。ばかばかしくて、気がおかしくなる。こんなうちでは、とてもくらせない。そうだ、いっそ旅にでよう。妻よ。おまえの顔を見ずにいたら、ぼくの気も、しずまるにちがいない。旅にでて、もし世間に、おまえより、もっとばかな者がいたら、もどってきて、いっしょにくらしてやる」 花むこは、さんざんののしって、酒ぐらを出ていきました。 そして、ふりかえりもせずに、旅にでていきました。 旅にでた花むこは、ある川のたもとにつきました。 すると、小舟につんだ、はしばみの実を、大きな熊手ですくいあげている人がいました。 でも、はしばみの実は、熊手のすき間からこぼれ落ちて、なかなかすくえません。「もしもし。熊手で、なにをしているのですか?」「ああ、さっきから、何度もすくっているだが、ちっとも、すくいあげられないんだ」「あたりまえですよ。なぜ、シャベルをつかわないんです?」「シャベル? そうか、なるほどね。そいつは、気がつかなかった」(妻たちよりも、おばかな人が、一人いた) しばらくいくと、川の水を小さなスプーンですくって、ウシにのませている人がいました。「もしもし。そんな小さなスプーンで、なにをしているのですか?」「ああ、さっきから、三時間もやっているんだが、ウシののどのかわきが、なかなかとまらねえんだ」「あたりまえですよ。なぜ、ウシにちょくせつ、川の水をのませてやらないんです?」「ちょくせつ? おおっ、それはいい考えだ」(これで、おばかが、二人めだ) 花むこは、また、あるきつづけました。 すると、畑のくわの木のいただきに、ズボンを手にして、立っている女の人がいました。「もしもし。そんなところで、なにをしているんです?」「まあ、だんな、きいてくださいよ。夫が、このあいだ死んのですが、坊さんがいうにゃ、夫は天国へいったちゅうことです。そこで、わたしゃ、もどってきたら、このズボンをはかそうと思って、まってるだよ」(三人めのおばかだ) 世間には、妻よりもばかな者が、三人もいた。 これでは、うちへかえったほうがよさそうだ。 花むこは、そう思って、うちへかえりました。 この後、うまれた子どもに、チッコ・ペトリコと名づけましたが、チッコ・ペトリコは、とても長生きしたそうです。
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